私がわたしに還る場所。飛騨の森

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岩佐 勝美さんイメージ

太古の昔からたくましく生きてきた森の姿を見ると、謙虚な気持ちになれるんですよね。

飛騨市・白川郷自然案内人協会 インタープリター

岩佐 勝美さん

Iwasa Katsumi

天生の森で、一番好きな季節

「天生の森で一番好きな季節はいつですか?」と聞かれれば、僕は「紅葉が終わって葉っぱが落ちてしまった時期」と答えます。
葉っぱがすべて落ちて、空が広がるんですよね。その空に、ものすごく細かいブナの枝のかたちがハッキリと浮かんで、森のなかも陽が差して明るいし、展望がいいので普段見えない部分も見えてくるし、地面には落ち葉がたくさん落ちてるからフカフカで、それを踏みしめながら歩くのが本当に気持ち良くて。空気も澄んで、キリキリッと引き締まったひんやり感が好きなんですよね。明るい森の中を落ち葉を踏みしめながら歩くのが、とっても気持ちいいんですよね。
その時期は、鳥を楽しむのにもベストなんです。シジュウカラ、ヤマガラ、コガラ、ゴジュウカラとかが、一緒に群れをつくる混群といわれる、集団を形成するようになるんですね。それがまた楽しい。たぶん、葉っぱが無くなって自分たちの姿が露出して、天敵からも無防備になってしまうので、小さな鳥たちが仲間になって、少しでもお互いを守ろうとしてるようですね。
でもそんな時期はほんの少し。1週間から10日、長くても2週間くらいしかなくて、じきに雪が降って閉ざされてしまうのです。でもそんな時期は、人もほとんど来なくて。僕にとっては、森の中で過ごすには一番好きな時期なんですね。

森の中で、普段の生活で忘れかけた五感を取り戻す

僕はよく、「マクロの目とミクロの目の両方で見ると、森はもっと楽しくなるよ」って提案をしているんです。ミクロの目、つまり花だとか近いところばっかり見てると、森全体の美しさがね、見えなくなっちゃうんで、両方を見ること、さらには人間が持つ五感すべてを活躍させて森を歩くと、もっといろんなことが感じられてくるよって。
風の音って書いて“かざね”って言うんだけれど、風が笹の原っぱを通り抜ける音や、とりわけブナの森を吹き抜ける風音というのは独特で、要は葉っぱが擦れ合う音なんだけれども、その独特な音を聞き分けるのも、森歩きの楽しみのひとつ。
そういうふうな耳の澄ませ方をすると、そこから広がって、いろんな音が聞こえてくるよね。
例えば、いろんな鳥の鳴き声が聞こえるなかで「何種類いるのかな」と推測してみたり、その中で何の鳴き声か、姿を見ればわかるんだけど、それを声だけで判別してみたり、そんなことをしていると、まったく飽きないんですよね。
葉っぱが落ちる音というのも、一人で森にいると、とても大きな音に感じられてね。大きな朴の木だと、バサッと大きな音がしてね。それは、楽しむというより、ドキッとするんだけど。イナゴなんかが飛ぶ音もザワッとするよね。
もちろん、日常生活の中でも足音とか車の音とかいろんな音があるんだけどね。だけど普段の生活では、そういう音を意識して判別しようとは思わないじゃない。
それが、森の中だと本当に小さな音にも反応している自分があって。そういうことで、森の中にいると、普段の生活では忘れてしまっている五感が研ぎ澄まされていって、より豊かに感じる力を取り戻せているのかなって気がするんです。

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